ヴァイオリンとヴァイオリン音楽



第二楽章 ヴァイオリン解体新書


(Mr。ビーハイブ楽師の話題メモ帳)

(その1)胴体部と付属部

 ここではヴァイオリン(以下Vn)の各部の名称とその役割及び問題点等を参考資料の図面を参照して 説明する。(参考図書)「ヴァイオリンを読む本」(ヤマハムジックメディア社)


図1.ヴァイオリン解体図
T:胴 体 部
(1)
表板
Vnの表板は(弦の張ってある側)一般にスプルース材(松だが日本では、 えぞ松・とど松のようにまっすぐに伸びる松に相当する)を使う。通常表板の中央部で縦に接合して 一枚の板のようにして削りだして膨らみ等を付け表板を作る。
(2)
裏板
Vnの裏板はメープル材(楓)を矢張り中央部で2枚張り合わせて削り 出してメープル模様をうまく合わせて作るが、稀には1枚板で作ることがある。日本産の楓は重く、 また硬すぎてVnに適さず、ユーゴスラヴィア産のメープルが最適な材料とされている。
(3)
力木(バスバー)
Vnは弦を4本張ると約200ポンドくらいの張力がかかるので 表板だけでは強度的にもたないのと、音響的な関係から低音側のf字孔の横に力木というのを 取り付ける(図参照)
常に弦を張ったままにしておくと破損の原因にもなりかねないので、 練習後には弦を少し緩めるのがよいが、初心者の頃はいちいち、チューニングをしなければならない ので、かなり苦労する。
然し反面チューニングの練習にもなるので、練習後は弦を少し緩める ことをお勧めしたい。最近の音響学者の研究では、力木を僅かに削るだけでも音が変わると 言う。
(4)
側板
6枚のパーツに分けて作られるが、それを合わせてVnの形を作り、 そして表板と裏板を接着してVnの形の筐体を作る。
接着は膠を使用する。膠は接着力は強いが、 前項でも述べたように湿度に弱い。その反面、適当な温度と湿度を接着部に含ませてやると、 比較的容易に剥がす事が出来る。従って修理の際の利便性がある。
もし膠でなくて現在の様な 強力な接着剤であれば、一旦接着すると、破損した場合の修理は困難を極める事であろうと 推測される。
(5)
f字孔
f字孔によって表板の振動がスムーズになりよく響くようになる。 また胴体内の空気の動きが良くなるので、大きな音が出るようになる。
この様に表板に孔を 設けると言うことは、音響学的にも理にかなった事であり、先人の素晴らしい知恵の結晶であろうと 思われる。然しVn以前のヴィオールではfではなくてC字孔であった。
またVnの場合は、 このf字孔の作りがそれぞれの作者によって異なりf字孔の作りによって彫刻の技術の優劣が 分かると共に作者を判断する基準の一つにもなっている。
(6)
指板
指板は演奏者の左指で押さえて音程を取り、演奏する為の押さえ板である。 一般的に黒檀の様な硬い材料が使われるが、それでも長い間使っていると爪の形が付いて凹みを 生ずる。その場合は指板を削って平らにして滑らかにするが、何度も削っていると指板が薄くなる ので、取り替えることも必要となる。
<7)
ネック
Vnの棹の部分であり、ネックの上に指板が貼り付けられる。ナット部と 駒の間で弦が張られて奏者はその指板上で運指をして演奏する。
(8)
ペグとペグボックス
(糸巻き)
Vnの弦は低い側からG・D・A・Eで調律される が、その間隔はいずれも完全5度で調律される。弦の張りはテールピースに固定された弦が駒の上に 乗り、ナット部を介して糸巻き(ペグ)に巻き付けて弦に張力を与えて、所定の音高に調節する。
弦をペグに巻き付ける際巻いた弦の上に弦が斜めに乗らない様に、出来得れば以下の理由からも きれいに巻き付ける事が肝要である。弦の上に弦が斜めに重なった状態で乗ると、弦の破損に つながりかねない。(筆者はE弦が切れて跳ね返り、目に刺さったと言う話を聞いたことがある)
ペグについても長い間使っているとペグの表面がつるつるになり、滑って緩む事がある。粗い紙 ヤスリ等で削り、滑り留めをつける必要がある。(筆者の場合は玉突き用のチョークを 勧められた)
(9)
パーフリング
Vnの縁に沿って線状の彫刻が施されているが、ここの部分に 象嵌が施され、中には螺鈿のきれいな細工が施されているものがある。これは特に音質・音響には 関係は無いが、Vn製作者の彫刻技術の美的表現の顕示性を示すものであろう。
(10)
スクロール
Vnのネックの先端についた渦巻き状のヘッドのことである。 これは音質等に全く関係は無いが、パーフリングと同様に製作者の彫刻技術の優劣が如実に表れる 部分である。なお渦巻きではなく獅子の顔などが刻まれているものもある。
U: 付  属  部
(11)
駒(ブリッジ)
駒に4本の弦を張って音を出す支点となるものである。Vnの 部品でVnの本体と接着していないのは、駒と魂柱だけである。然しこの2つの部品はVnの音質に 極めて重要な働きを持っている。駒は消耗品だからといって決して疎かにしてはならない。
駒の足の部分とVnの表板の曲率が合っていないと、弦の振動が表板にうまく伝わらない為に曲率は 極力高い精度で合わせるべきである。器用な人ならば、自分でも調整は可能であるが、自信のない 人は専門家に依頼した方が良い。
また駒の高さは、高ければ左手の運指に支障を来すので、 演奏者のやり易い高さに調整する必要があるが、一般に指板の端の部分で弦を押さえた時、指板の 中央部で弦と指板の隙間が1〜1.5oくらいが適当ではないかと云われている。
また駒は弦の引っ張り応力を受けて、ややもすると、前屈み(指板寄りに)になる事がある。そう すると、駒の脚のテールピース側に僅か乍ら隙間を生ずることになるので、常に駒が真っ直ぐに 立っているように注意すべきである。さらに駒の位置をむやみに変えたりすると全体のバランスを 崩す事になりかねないので、注意が肝要である。
(12)
魂柱
魂柱は外見的には見えないが、駒の高音側の少し横の部分に立っている。 駒のところでも述べたように、Vnの音質に関わる部分で膠で接着していないのは駒と魂柱である。 駒は消耗品であるた為に接着は出来ないが、魂柱はf字孔から差し込んで立てるため接着をすると 微調整が出来ない為である。Vnの善し悪しについては、色々な本に書かれているが、魂柱の取扱いも 疎かに出来ない。魂柱は表板の振動を裏板に伝える重要な役割を持っているだけではなく、微妙な 音質の変化をもたらす。従って魂柱の位置が少し変わるだけでも音質が変わってくる。そこで魂柱の 調整は少しずつ位置を変え乍ら最も良い響きがする位置に固定する。(固定と言っても表板と裏板に ずれないように両者できっちりと挟み込ませる)非常に細かい作業であり初心者、中修者でも難しく、 耳が良くなければ無理である。従って必要な場合は専門家に依頼すべきであろう。
(13)
テールピースと
エンドピン
テールピースの小さな孔で4つの弦を固定して 張るための部品でエンドピンにひもで引っかけて弦を張ることになる。エンドピンはVnの尻のところに ついているピンである。そのエンドピンに掛ける紐を尾留め紐と称する。 (筆者は琴糸を使っていた)
(14)
E弦アジャスター
E弦はかなり張りが強い上、調節が難しいので、微調整に アジャスターを使う事がある。アジャスターはテールピースに取り付けられるが、あまりアジャスター ばかりで調節すると駒との微妙なバランスが崩れる事があるので、微調整に止めたい。
(15)
あご当て
(チンレスト)
Vnが誕生した時期には無かったが、Vnが名人芸が 求められる時代に考案された。(教則本などで有名な作曲家でVn奏者のルイ・シュポアが考案した) このあご当てはVnの低音側に取り付けられる。このあご当てと、鎖骨でVnを挟んでしっかりと保持して 演奏をする。
古楽器の奏者はあご当てを使用していない。また古楽器奏者の場合は、あごは 高音側で挟んでいる。

(筆者の覚書)
****** 「チンレスト」思いつくまま ******
チンレストはシュポーア(編集者下注参照)の考案したものと云われています。従ってバロック 時代にはチンレストはなく、直接Vnの胴体を挟んで保持していたようです。それも現代Vnの様に 低音側ではなく、高音側で挟んでいたようです。私は直接挟むと振動板の一部を押さえることに なり、音響的には良くないと思っています。
チンレストはごく端を挟むだけで、あごが当たっている部分は空間があります。Vn奏者のあごは タコができて大変です。とくに若い女子はあごから鎖骨にかけてあざだらけの状態になります。 困っているとは思いますが勲章の様なものです。オーケストラなんかではハンカチを置いて汗を 取っていますが、これは私は余り好みません。ハンカチがVnに触ることがあると、矢張り少しは 影響があるのではないでしょうか。
(注)ルードビッヒ(ルイス)シュポーア
(Ludwig Louis Spohr)(1784-1859)
ドイツに於ける19世紀最大のヴァイオリニスト。演奏家であると同時に作曲も行い、小協奏曲を 含め、15曲のヴァイオリン協奏曲を残しましたが、現在演奏される彼の作品は、せいぜい ヴァイオリン協奏曲第八番イ短調作品47ぐらいで、忘れ去られたロマン派の作曲家です。 ヴァイオリニストとしての功績は、ヴァイオリン教科書(1831)を書き、ヴァイオリン演奏技術を 記述している点とされてます。
しかし、元々彼は、立派な体格の持ち主であったので、体力に 物を言わせて、ヴァイオリンのむづかしい技巧も難なくこなしたと伝えられている。
       (出典:「名曲解説全集6・協奏曲上」牧定忠(昭和36年9月)音楽之友社)
****** ヴァイオリン演奏の一苦労話でした。 ******

16:ニス(ワニス)「ニスの秘密」と言う言葉があるようにVnの音質はニスの 善し悪しによりかなり影響されると云われている。(正式にはワニスと言う)
かつてクレモナの 名工達はニスの調合に凌ぎを削り、中には琥珀を使ったとかターメリック、その他独特の顔料を 使ったと言われている。作者によって色調・艶が違うのは作者独特の顔料を使っている為である。
ニスには2種類ある。一つはオイルニスと言われる油性のニスと、もう一つは揮発性のニス (アルコール)である。ストラディヴァリ等が使っていたのはオイルニスである。オイルニスは得も 言われぬ色艶が醸し出される。ただ、木地の上にそのままニスを塗ったのであれば、余り良いものが 出来ず目止めという、いわば透明にニスを下地に塗って充分木地に滲み込ませておいてから、20回 ばかりニスを重ねていくそうである。この様に何回も重ね塗りをするとかなりの日数が必要になって くる。
これに対して揮発性ニスは乾きが速いために大量に生産しようとした場合、大変に好都合である。 然し天は二物を与えずと言う諺のある様にそう旨くは行かないもので、揮発性ニスの場合の色艶は オイルニスに到底及ばない。
この様にニスはVnに対して不可欠なものであるが、それほど音質に影響するものであろうか?冒頭にも 述べたように、Vnはアンドレア・アマティが完成してから、およそ450年になるが、その間、特に 19世紀〜20世紀にかけての科学技術の進歩は著しく目覚ましいものがある。然しVnの場合は ストラディヴァリ、ガルネリを越えるものは出てこない・・・と言うか、ストラディヴァリを 理想的な原型として、それにいかに迫ろうかと言う段階を脱しきれない。ニスに秘密があると云って 名器を丸裸にしてニスを調べたり、ストラディヴァリのVnと寸分違わぬVnを作って調べたと云う例は、 いくらもある様である。
近年音響学も発達したが、アメリカのハッティンスの率いるグループは正弦波駆動による音響解析を 行っている。ロシアでもG・マイネルによって1930年代から始められたが、それを引き継いだ B・A・ヤンコフスキーは、正弦波駆動よりももっと簡単なパルス駆動による音響解析がかなり進んで いる。日本では安藤由典氏により、種々の楽器の音響学的研究がなされている。
これらによるとニスは音響に対して+の効果はなく、共振周波数は変えないが共振のピークを 3デシベル低くする事などが明らかになって来ている。これらの結果から、木地の共振特性が 鋭すぎる場合を除いてニスは鳴りを悪くする影響しか示さない。従って塗りの厚さは出来るだけ薄く、 特に表板の場合は最小限に止めるべきだと云う事が分かってきた。従ってニスは木地を保護する こと及び美観をとどめる事が重要な要素である事が分かる。
そこでクレモナの名器の美音は 何によるものであるか、に逆戻りをすることになるが、ニスのみでは無く、木地そのものゝ特性及び Vnの筐体の作り・バランスなど総合的に均整を保って初めてなし得るものであろうと考えられる。 「ニスの秘密」の神話は一説によるとイギリスのヒル商会が作り上げた神話ではなかろうかと 云われている!

                             (筆者の覚え書き)
********** ヴァイオリン(Vn)の音色について************

筆者が師匠から色々なVnに触らせてもらい、教わったVnの音色について触れてみたい。

(その1)悪いVnは、大きな音が出る場合でも、ボーッとした音で芯のない音;
         「声楽で云えばスピントしていない」例えは悪いが応援団長の出す
          いわば胴間声の様なもの、これはそば鳴りはするが、遠くへ響かない。
(その2)押しつぶされたような音や鼻つまりの様な音は良くない。
(その3)明るい艶やかな音でも音量が無いものは独奏には向かない。
(その4)低音が良くても、高音の鳴りが悪い。あるいは高音は良いが、
          低音の鳴りが悪いもの

等々、Vn一つずつに個性があり、バランスがとれて、比較的鳴るものが、良いと言う事に
なる様に思われる。

(その5)またVnは使わずに置いておくと鳴らないようになる。常に弾き込む事が
          大切である。
またストラディヴァリの様なVnでも新米が弾けば、新米の音しか出ない。
 従ってアマチュアの人がストラディヴァリを持っても猫に小判である。

   ******** ヴァイオリン(Vn)は本当に不可思議な楽器である!*********


平成14年5月31日  ***編集責任・錦生如雪***


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